バビロン Dolby Atmos【ネタバレあり感想】★9
ブラピ×マーゴットロビーってだけで,両者のファンとして昨年情報公開された時から公開を心待ちにしていた作品。
シリーズものじゃない作品を待ってる時のドキドキ感ってなんかいいですよね。
あらすじ
サイレント映画の巨匠ジャック(ブラッド・ピット)が開いた豪華な乱痴気パーティーで,新進気鋭の女優ネリー(マーゴット・ロビー)と,ハリウッドに夢を見て業界に飛び込んできた青年マニー(ディエゴ・カルバ)は運命の出会いをする。
時代はサイレント映画からトーキー映画の時代へと移り変わっていくが,3人の運命も周りの人をも巻き込んで徐々に移り変わっていく…
1920年代のハリウッド黄金時代を舞台にしたクレイジーな人間ドラマ。
基本情報
監督・脚本:デイミアン・チャゼル
出演:ブラット・ピット,マーゴット・ロビー,ディエゴ・カルバ,トビー・マグワイア
制作国:アメリカ合衆国
日本公開:2023年
上映時間:185分
こんな人におすすめ
・マーゴット・ロビーが好き!
・デイミアン・チャゼル監督の描く人の苦悩・辛さが好き!
・ハリウッド黄金期の世界観が好き!
・熱いジャズが好き!
~以下ネタバレありの感想です。~
感想(良かった点)
面白かった!!上映時間185分と聞いた時にはこのストーリーでそんなに時間あったら飽きないかが心配だったのですが,そんな心配は杞憂でした。
ただ,なんで面白かったのかと聞かれるとこれが上手く説明できない(笑)
でも,なんかよくわからないけど面白かった,とかそういうわけでもないんだよなぁ。
時間を感じさせないほどの熱量で,夢を見ているのかテキーラのショット飲みすぎてふわふわしているのかよくわからないような感覚。
ハリウッドに夢を見た者たちの栄光と破滅,欲望と熱狂みたいな綺麗ではないけれどもドロドロしているわけでもないものを3時間たっぷり浴びせられるから,終わった後はなんだかすごいものを観たなぁという感じ。
同じチャゼル監督の「セッション」を見たときの感じに近いものがあるかもしれない。
序盤から終盤までマーゴット・ロビーがノンストップで狂喜乱舞し続ける3時間
冒頭のパーティーシーン,会場で堂々と脱いで乱痴気騒ぎは当たり前,個室で女優とドラッグキメて変態プレイをしてる偉い人はいるし,挙句ドラッグの過剰摂取で女優は死ぬわのまぁあれやこれやの大騒ぎの大宴会を見せつけられていきなり映画の勢いに引き込まれる。
そこに颯爽と現れるのは,セクシーなドレスに身を包んだネリー。
登場早々いきなり車を彫像にぶつけて彫像ともどもスクラップにしたかと思えば,詰め寄ってきた警備担当(当然ネリーより偉い)に「彫像が動いてぶつかってきた」とかいうおよそ通るとは思えない小学生以下の言い訳を当然のようにぶちかます。
この時点では女優ですらなく,そもそもパーティーに招待すらされていないのに,そんなことはどこ吹く風でマニーの助けも得てパーティー会場に入っていき,持ち前の魅力とドラッグの力でフロアの中心になっていく姿は圧巻の一言。
フロアのダンスシーンでのマーゴット・ロビーの色気はものすごい,ヤバい。映画のトーンを明確に打ち出した名シーンだった。元々色気ムンムンな女優さんだけど,パーティー会場の空気感も相まってものすごいことになっています。
前から好きな女優さんだったけど,今作を見てもっと好きになったし,これからも彼女のファンでいたいと改めて思いました。
怒涛の場面転換
パーティーシーンで黄金のハリウッドを見せつけたかと思えば,パーティー翌朝のシーンで急にリアルを見せてくるのがまたたまらん。
ジャックは大スターなので,パーティー会場に劣らぬ大豪邸に帰っていくわけだけど,その他の面々は昨晩の華やかな世界から一転,イスをベッド代わりにして寝るような部屋だったり,パーティー会場並みにとっ散らかったベッドのみの部屋,プライベートもなにもないような部屋だったりと様々で,登場人物達を一瞬にして現実に引き戻す。
翌朝のそれぞれの生活を描いていることで,その後の撮影シーンがまた映える。
この場面ではあっちゃこっちゃで防音もせずに色々な場面を平然と撮影しているのは,サイレント映画ならではという感じ。
トーキー映画だと周りの音が入るからおよそ無理な芸当。後半の防音ばっちりの中で撮影されてるトーキー映画の撮影現場との対比が面白い。
その後もトーキー映画の流れに対応しようとするも流れに乗り切れないジャックの苦悩,マニーやシドニーの出世,ネリーの栄光と破滅といった人間ドラマを怒涛の勢いで繰り出してくるもんだからもうたまらん。
ハリウッド黄金時代の狂気を3時間ノンストップで浴びせられる。
観客含めた登場人物全員の物語
この映画,ブラピとマーゴットとディエゴの3主人公にスポットライトを当てた物語かと思いきやそうではない。
確かに3人の出番は多いけど,誰が主人公かと言われるとポスターに出てくる全員が主人公。
最初は単なる1演奏家で映画界とは縁もゆかりもなかったシドニー(ジョヴァン・アデポ)や,字幕家なのかシンガーなのかよくわからない役割で、ハリウッドでの自分の立ち位置を模索するレディー・フェイ(リー・ジュン・リー)にもスポットライトがあたり,彼彼女らの人生もが描かれるところで,この映画はある人の物語なんじゃなくて,サイレント映画全盛期からトーキー映画の時代へと移行する激動の時代をハリウッドで生き抜こうとする一人一人の物語になっている。
一方で、彼らの人生を描きつつ、時代が変わろうとも劇場に足を運んで映画を見続ける観客私達の物語でもあると感じさせられる作りになっていて、自分も映画という多いなる概念の一部のような気がしてくる。
ボーっとしていると観客が置いていかれそうになるほどの勢い
1926年から30年代にかけてのハリウッド映画の転換期を舞台にしていて,サイレント映画からトーキー映画への転換,というのが重要なテーマなのだけれど,ここの説明は割と雑い。
ジャックが輝けなくなってくるのには世界恐慌も絡んでるはずなんだけど、このくだりはない。
並の映画ならそこのところの説明がなくてもなんとかなるんだろうけど,この作品は勢いがものすごいから,ボケっと観てると作中の時代の流れに観てる側がおいていかれそうになる。
台詞が下手でジャックが映画館で笑いものにされてるシーンとか,なんで笑われてるのかわからない人とかいるんじゃないだろうか。
ここはこの作品のいい面でも悪い面でもあったかな
感想(いまいちだった点)
とはいえ,観る人を選ぶ映画かもしれない
個人的にはなかなか面白い映画だったのだけれど,万人にお勧めできるかというとそうでもない。というか無理な人は無理だと思う。
実際,自分が観に行った回も,途中でトイレに抜けたのかと思いきや帰ってこなかった方が何人かいた。
まずこの映画,本当に雑に一言で説明するなら「映画業界版ウルフ・オブ・ウォールストリート」って感じなので,とにかく汚い。SNSでは汚いラ・ラ・ランドなんて意見もありました。
糞尿!ドラッグまみれ!ゲロまみれ!撮影現場で人は死ぬ!おっぱい!って感じの狂気と野望のエンドレスワルツに加えてチャゼル監督の思想モリモリなので,無理な人は無理なんだろうなぁっていうのはわかる。
この映画本当にR15でいいのか?
「セッション」でもそうだったけど,この監督,野望と狂気が入り混じった感じの表現が画面を超えてくるから,確かに席から離れたくなる気持ちはわからんでもない。
映画館で映画を観ることに慣れている人のための作品かもしれません。
個人的には,ジャックがこれから自殺することを暗に知らされたうえで,それを止めないジャックとレディー・フェイのシーンがお気に入り。
ああいう言わずとも分かり合った関係,みたいなシーンベタだけど弱いのよねえ。
チャゼル監督の映画愛?というか、人は何故時代が変わろうとも映画界に惹かれ、観客は劇場に足を運んで映画を観るのか、に対するチャゼル監督なりの考えを感じる作品でした。